あつしくんさん(以下あつしさん)は古稀を過ぎてもなお現役バリバリ。酒席などでたくさんお世話になっており、密かに良心の鑑と尊敬の念を抱いている。後に私と同じ大学・学部の先輩と知った。今後ともどうかご指導のほどを。
振り飛車党で四間飛車穴熊を得意としていたが、最近は向かい飛車を愛用されているようだ。
【1】ゆっくりと指しましょう
普段は仕事の合間の息抜きに、パソコンのソフトと指されているとのこと。序盤はご自身で定跡化されているのか、指し手には迷いがない。私は対向かい飛車の経験に乏しく、勘所が分からない。▲8八飛に△8五歩とするのもどうなのか。後から逆襲されることは目に見えている。
私は8筋のケアを気に留めながら、△4四歩〜△4三銀(1図)と持久戦の構え。あつしさんとはしばらくぶりの対局。まあそう先を急がず、ゆっくりと指しましょうとの意思表示だ。
(1図は△4三銀まで)
【2】うれしく感じる手
先手は8筋から攻め込む。棒銀をまともに食らってはたまらない。△5一角では△6二銀もあった。実戦は銀交換となり、先手が戦果を上げた。
△7三同角にあつしさんは本局で初めて少考に入る。しばしの後に▲7二歩。小粋な垂れ歩である。こうした手に出くわすと、相手の好手にさえうれしく感じることがある。但し実戦は△8七歩があった。▲同飛は△7八銀が飛車金の両取り。▲7二歩ではこれを含みに▲7六金などと△8七歩を避ける方がよかった。
(2図は△7二飛まで)
【3】先手に誤算か
▲8三銀は後手の角をいじめながら7・8筋を攻める狙い。代えて▲6一銀△8二飛▲5二銀成も有力だった。▲7三歩に△同桂とされ、やや忙しくなったことが、先手にとって誤算だったかもしれない。▲8四歩では▲8四成銀や▲7五成銀がまさった。
△1五歩は図々しい手。突き捨てが入れば得という手だが、あつしさんは取ってくださると思った。面倒見のいい先輩ですから。△8五桂で角と成銀の両取りが掛かった。▲8六角では▲7三歩などと成銀を助ける方が綾があった。
(3図は△7九飛成まで)
【4】すべての駒を使いたい
3図は銀得して飛車を成り込んだ後手の優勢。先手玉にどう迫るか、寄せのプランに実力やセンスが問われそうだ。△9九竜では△5五桂が最速だったか。以下▲6八金△4七桂成(この手が見えなかった)▲同銀△4九竜は寄り筋だろう。実戦は△9九竜と香を補充し、その香を1筋に足す。桂は2五に打って詰めるつもりだった。
先手はと金を作り追い上げを図る。後手はこれに乗じて角と右桂をさばく。先後それぞれ20枚ずつ、できればそれらすべての駒を余すことなく使いたい。
(4図は△7七桂成まで)
【5】今何回、何対何
将棋を他の競技になぞらえて得心することがある。まずは野球。形勢判断を「今何回、何対何でどちらが勝っている」と例える。4図はさしずめ、7回裏、後手が追加点を取り7対1でリードといったところか。
10対0で圧勝する必要はない。1点差でも勝ちは勝ち。けれど8対7ではしんどい。5対2くらいがちょうどいいかもしれない。▲6二と引の局面で先手玉に詰みが生じていたようだ。(我が家のAIの指摘)。さほど難しくもないが、私は気づかず、またまったく読む気もしなかった。
(5図は△1七同香成まで)
【6】詰めはショートパット
次にゴルフ。自分が首位の立場で2位とは3打差。最終ホールパー5、2打目にリスクを冒してドライバーで池越えの2オンを狙う猛者は少数派だろう。将棋にも「長い詰みより短い必至」の金言がある。
「詰めはゴルフのショートパット」の例えは羽生九段の語録で知った。5譜▲4八飛に詰みありと△1七銀から収束へ向かった。△1七同香成(5図)では△1六桂以下の3手詰があった。返しの30センチのパットを無造作に片手で打って外したような気恥ずかしさが残った。
(投了図は△2四金まで)
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