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第七番 ささやかな工夫


はまやらはさんはリタイアした2年前から本格的に将棋の勉強を始められたとのこと。70才までに三段になり、小学生に教えるという目標に向け、「勝つ手より本筋の手を指したい」と熱心に取り組まれている。

 

棒銀を得意とされている。加藤一二三九段に「銀は営業部長」の例えがあるが、はまやらはさんの棋風や人柄を彷彿とさせなくもない。

 

【1】ウソ矢倉

 

先手の棒銀を見越して一計を案じた。2手目△3四歩とし、飛車先を△3三角で受ける。いわゆるウソ矢倉の出だし。最近では伊藤沙恵女流三段がよく指している印象だ。通常の矢倉に△3三銀を△2二銀と引く受けの形があるが、本局では予めその余地を残している。実戦も△2二銀として先手の攻めに備えた。

 

はまやらはさんは▲7七角〜▲6七銀と雁木の構え。後手に追随したつもりが、当てが外れたかもしれない。対局中も「慣れないことを……」とぼやかれていた。

 

(1図は△3一玉まで)

 

【2】ハイブリッド

 

長めの駒組みが続く。私は△8四角〜△7三桂と攻めの形を作る。目指すは菊水矢倉と右四間飛車のハイブリッド。「ハイブリッド」は最近のマイブームで、昨今多様化する戦法や玉の囲いを、A×Bのように複数掛け合わせようとするもの。新旧の流行を、温故知新さながらにあれこれと組み合わせを考えることが楽しい。

 

はまやらはさんは右銀の進出を自重。▲2四歩から飛車先交換を狙ったが、△同歩(2図)に▲同飛と指し掛けた後、「そっか……」と言って思いとどまった。

 

(2図は△2四同歩まで)

 

【3】知識が増えると

 

2図から(1)▲2四同飛に△2五歩の蓋歩を気にされたのだろう。これには▲同桂△2三歩に▲3三桂不成(王手)があり、後手が上手くいかない。

 

知識が増えると、考えることや迷うことも増える。それらにより、今までのような勢いのある手が指せなくなったりすることがある。将棋の奥深さとも言えるだろうか。

 

実戦は(2)▲2五歩の継ぎ歩から桂交換。▲3七角は好点だが、△4五桂(角銀両取り)をうっかりされたとのこと。▲8六歩は勝負手だろう。

 

(3図は△5七桂成まで)

 

【4】個性の出る局面

 

後手は待望の△6五歩。▲8五歩(角取り)に(1)△6六歩と斬り合いを選択した。ここは個性の出る局面で、(2)△9三角が最善で多数派だろう。△9三角は自分さえよければいいという類いの手。△6六歩には相手に対する敬意が込められているだろうか。私の棋風や性格が表れた手と感じた。(もちろん成算があってこそだが)

 

△6五桂に▲6六角は△5七銀、▲3九角は△6六歩を読んでいた。実戦の▲6三歩には△5七桂成が入る。▲同金とするはまやらはさんの手つきに力はなかった。

 

(4図は△6四同飛まで)

 

【5】はまやらはさんの自己分析

 

▲5五桂では▲8二角がまさっただろうか。以下△6二飛▲7三角成に、飛車を見捨てて△5六銀とするつもりだった。実戦も△5六銀が決め手となった。先手は3譜▲8六歩の勝負手も及ばず。形勢に差がついたことは止むを得ない。

 

はまやらはさんは自らを、「自分の攻めに固執し、つんのめってしまうことが多い自分勝手な将棋」と分析されている。傍からは鋭い攻めを貫いて快勝されるところも多く見てきた。私の一連のささやかな工夫は、それを認め恐れた証とお許し願いたい。

 

(投了図は△3二同金まで)