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第六番 端角を巡る駆け引き


宗純さんは将棋全般に精通され、昔の棋界のこともよくご存知だ。職場の友人らと楽しむ時期を経て、長らく今でいう「観る将」だったとか。定年退職後「指す将」にもなり、仲間に加わってくださった。戦法や戦術にも明るく、最近は振り飛車を連採されているようだ。

 

宗純さんは初手▲1六歩と早くも牽制球。これは杉本(昌隆八段)流か。

 

【1】急戦は見せかけ

 

私は2手目△8四歩。△3四歩なら▲1五歩の予定だったとのこと。少し前のテレビ棋戦で杉本八段(先手)が豊島竜王に指したらしい。(豊島竜王を三間飛車に誘い、杉本八段が居飛車で快勝した)。それはそれで体験してみたかったが、実戦は先手の四間飛車に落ち着いた。

 

私は急戦を匂わせる駒組み。しかしそれは見せかけで、△4四歩と角道を止め上部に厚く構える。宗純さんが振り飛車のさばきに執心されることを見越し、まずはそれを阻止する狙いである。

 

(1図は△7三桂まで)

 

【2】受け将棋の事情

 

私は仲間内でもかなり際立った受け将棋である。もともとの性格だろう。自分が自分がという気持ちになれない。万事思い通りにはならないとのあきらめも。

 

読みよりも流れに重きを置くことも関連しているだろうか。本来なら攻め筋を考えるべきエネルギーを、相手の指し手に対応することや局面の状況を判断することに費やしているようだ。

 

先手は自然な駒組みから、飛車を5筋に転じ、歩を手持ちにした。私は△1三角(2図)の揺さぶり。たまに用いる裏芸である。

 

(2図は△1三角まで)

 

【3】角は逃げない

 

先手としては1三角に堂々と居座られては面白くない。▲1五歩からの反発は当然だろう。後手が無策ということもなく、一つには△1三香〜△1一飛と1筋を逆襲する狙いがある。▲2七銀はその備えだが、この瞬間は離れ駒が生じている。

 

△3五歩は玉頭戦の合図。宗純さんはここで▲1五歩を決行。△同歩に▲1二歩を局後悔やまれていた。後手は初めから角は逃げない方針だからだ。△3五歩は見た目以上に大きな拠点。△3四金(3図)から玉頭を盛り上げていく。

 

(3図は△3四金まで)

 

【4】さらに盛り上がる

 

▲3九玉は戦場から遠ざかりながら▲1八飛を見た手。対局中はやはりと感心していた。代えて▲7五歩も有力だった。(1)△同歩は▲7四歩△同銀▲1三香成△同香▲5六角(金銀両取り)がある。(2)△4三金▲7四歩△同銀▲6八角でどうか。

 

△4一飛は一手パスのような手。(▲1八飛に△1一飛とするから)。但し先手の手も意外と難しいだろうか。▲6五歩や▲2五桂はやや動き過ぎだったようだ。後手は△4三金〜△4五歩(4図)とさらに盛り上がる。角取りはまだそのままだ。

 

(4図は△4五歩まで)

 

【5】28手後

 

先手もそろそろ暴れていく頃だろう。さもなければ▲1五歩の顔が立たない。▲1四歩〜▲1三歩成に苦心の様子が窺える。私は△1三同角。あくまでも角をお取りくださいと言っている。宗純さんは角切りから▲1三香成を決行。角を取れ、いや取らない。3譜で角取りに▲1五香と走ってから実に28手後のことだった。

 

△1三同香が飛車取りの先手。▲1五歩に手番を得て△5五桂(5図)。ここは優勢を意識した。色々な手が見えるが、シンプルに迫るのがいいだろう。

 

(5図は△5五桂まで)

 

【6】宗純さんの振り返り

 

△1六角成では△4九金▲2九玉△1八銀▲同飛△同角成▲同玉△1五香以下の詰みがあった。(1四香や1一飛も働く)。この順を選べていたら会心譜だった。

 

端角を巡る駆け引き。対局後宗純さんは、2譜の△1三角を咎めようと拘ったことが間違いで、むしろ手を付けないことで負担にさせる策を練るべきだったと振り返られた。3譜の▲1五歩が指し過ぎで▲3五同歩だったと。以下△同角▲3八金△3四金に▲3六金か▲3六歩か。私としてはいずれにせよ玉頭からごちゃごちゃやるつもりだった。

 

(投了図は△4八銀まで)