湘坊さんは仲間内で今最も波に乗っている。(湘南・七里ヶ浜のサーファーでもある)。気性も棋風も至ってさわやか。作戦家で、YouTubeなどから熱心に情報を仕入れているようだ。最近は角交換振り飛車を得意とされている。
本局も3手目▲7七角と力戦の出だし。どんな研究手が飛んでくるか気が気でない。ならば相手の土俵に乗らないことだろう。
【1】棋は対話なり
「棋は対話なり」。指し手による盤上の会話は序盤の作戦に著しい。私のそれは相手の手に乗る、手の調子を合わせることが多い。見慣れた進行ならそれとなく追随するが、まれにトリッキーな手に出くわすことがある。そんなときは、目には目を、変な手には変な手を旨としている。メンタルマネジメントの点でも好ましい。
私の作戦は角交換に応じない、すなわち角道を開けないというもの。その結果先手のオーソドックスな四間飛車に対し、後手の右玉へと落ち着いた。
(1図は△8三金まで)
【2】虚々実々の駆け引き
△8三金(1図)はやや早まったか。先手の左金が4七に上がるのを待って指したかった。▲6七金を許し、早くも模様の取りにくさを感じていた。後手が△6二玉〜△7二玉とサイドステップを踏む間、先手は「飛騨の中飛車合掌造り」にも似た美しい布陣を築き上げた。
▲6八角にはもう一度ステップを繰り返すのだったか。頃はよしと△3四歩と角道を開けると、湘坊さんはすぐさま▲7七角。虚々実々の駆け引きである。互いに2手損でバランスは取れている。
(2図は△4三金まで)
【3】軟弱△5五歩
先手は自然な攻め。▲4四歩では▲6四歩も有力だった。実戦は▲7七角まで後手もまずまずの分かれと感じていた。
後手としては先手の攻めをなだめすかしながら、6〜8筋方面で盛り上がっていきたい。(1)△5五歩は一応その方針に沿っている。とは言えいかにも軟弱だった。代えて(2)△6五歩と自然に取り込むのだったか。また(3)△6五桂▲6六角△5五銀なら角が取れていた。
△6四同銀(3図)と△同金の比較は難しい。3図は後手陣に隙が生じている。
(3図は△6四同銀まで)
【4】どうにでもしてくれ
▲4三銀と勝手口から来られて困った。▲5四銀成では▲3二銀成もあった。守りの金を除去する方が得との判断だろう。▲3二金で後手の駒損は避けられない。
△1三角▲3三金のような順は勝てないとしたものだろう。(湘坊さんも自信があったとのこと)。△4六歩以下はひねり出した手順。△4五銀は「どうにでもしてくれ」の心境だった。▲2二金なら△4七銀、▲3三金にも△3六銀▲2二金△4七銀打のようにからむつもり。4図は後手の角損だが、先手の2二金も遊んでいる。
(4図は△5四桂まで)
【5】時限爆弾
△8四同飛の局面は手番を得た先手の優勢。▲5二銀など寄せを目指す手も有力だった。実戦の▲6六歩も「時限爆弾」のような催促の手。▲6五歩〜▲6四歩の間に寄せてみろと言っている。
△4六銀では△4六歩がまさったか。▲4八金とされて冴えないと思ったが、以下△5七桂右成▲同金寄△同桂成などと特攻してどうか。実戦も必死の追い上げ。△3七桂成(5図)は密かに△2八金▲同飛△同成桂▲1七玉△2七成桂▲同玉△4七飛以下の詰めろになっている。
(5図は△3七桂成まで)
【6】唖然呆然
後手の攻めのターンが続く。心掛けとしては、攻め駒は4枚以上をキープする、金を渡さない、盤上に種駒を多く残すなどだろうか。実戦はやや工夫に欠けたかもしれない。
▲3九銀の局面は何かいい手がありそう。金銀を打ち換えてどうなるか。△2八金以下引き分け(千日手)なら御の字か。せっかく追い上げたのになあ……。色々な思いを巡らせて△3六馬。決め手くらいに思っていた自分が情けない。▲3八歩と打たれて唖然呆然。少し前まで裸同然だった先手玉が急に見えなくなった。
(6図は△2八金まで)
【7】受けの勝負手
▲2八同銀左の局面でかなり長い時間固まっていたように思う。相手玉は遠く、自玉は風前の灯火。△4六桂は攻めというより馬を自陣に効かせた手。▲6四歩に△6二歩はジリ貧だろう。△8三玉は受けの勝負手である。
湘坊さんから読みにない手が次々と飛んでくる。こちらは何をされても淡々と応じるよりない。先手の攻めもややヨレ気味だろうか。どこかで手抜けるといいのだが、その見極めは難しい。さりとて受けたつもりが却って相手の攻めを加速させることもある。
(7図は△8二金まで)
【8】泥仕合が続く
▲9五歩は急所の攻め。▲8二馬では▲7三金がまさっただろうか。湘坊さんは▲7七桂と目一杯駒を使ってくる。
私は受けと攻めの判断に絶えず迷わされていた。△3八桂成としたいが▲同銀△同飛成▲3九金と弾かれたときにいい手がないと決行できない。
△6三馬と銀を外したものの、▲7三桂成から馬を消されてしまう。長い泥仕合が続く。実際に二人ともうんうんと唸りながら指していた。△8四飛(8図)は果たして徳俵でこらえているのか。
(8図は△8四飛まで)
【9】二択を誤る
▲7三角に次の手が分からなかった。受けるなら△8三金だろうか。できれば攻防の手を探したい。△3六角は一応狙いがあった。桂が入れば先手玉にも頓死の筋があり、その桂は7二に落ちている。
▲9四香には△8三玉がまさった。▲9五歩に△8三玉が最後の落手。△9三玉なら後手玉は詰まず、例えば▲9四金△9二玉▲8三桂(詰めろ)なら△2七角成(以下詰み)という幻の勝ち筋があった。形勢四転五転の迷局。最終盤、二択問題を2問続けて誤ったのにはほとほと呆れた。
(投了図は▲8二角成まで)
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