浮浪雲さんはフットワークが軽く、多彩な趣味を誇る。筋を通すこだわりの強さも秘めている。将棋は長考派で、一手一手納得して指したい様子が窺える。
粘り強さ(コク)も鋭さ(キレ)もある。コクやキレのどちらかがアマ三段の必要条件というのが私の見立てだが、両刀使いなら強い三段かそれ以上であることに間違いはない。角換わりになった。
【1】天の邪鬼
一局の将棋を通じて個性を発揮し、自己を表現したいという思いがある。この作戦は損だとか勝ちにくいとかはさほど気にしない。強いと言われるより、変わっていると揶揄されたい。自惚れが強いのかな。
もともと人まねが嫌いな天の邪鬼。ツイッター、インスタグラム、それって何?という手合いである。長く好んで指していた右玉は、近年プロ棋戦でも頻出するようになった。するとどうも食指が動かない。関連本が出回り、理解や対策が進む。そろそろ宗旨替えのときだろうか。
(1図は△5四銀まで)
【2】玉の中央待機
後手は玉の中央待機。玉と右金の反復横跳びを繰り返す。かなり昔(調べたら2005年だった)、テレビ棋戦で丸山九段が指すのを面白く見たことを覚えている。戦いによって玉を右へ左へ、はたまた上へという目論見である。
先手は銀矢倉に組み替え、本筋の趣き。私も△4二銀から銀の繰り替えを目指す。浮浪雲さんは▲5五歩と天王山に位を張る。手をこまねいたまま▲5六角などの好形を許してはならない。反射的に△5四歩(2図)と反発した。
(2図は△5四歩まで)
【3】角のスナイパー
▲4五歩が機敏だった。△同歩は▲4四角が王手香取り。△4三銀に浮浪雲さんは▲1七角と遠見の角を放ち、戦力を中央に集結させる。私も必死の防戦。角のスナイパーから逃れる△5二玉は、あいにく飛車の射程に入っている。
少し苦しめはいつものこと。後手としては相手に少し間違えてもらわないと仕方がない。すなわち相手の力を借りるよりない。「他力」の心得である。4筋と5筋で歩がぶつかっているが、自分からさっぱりさせない方がいいだろう。
(3図は△5五同銀まで)
【4】指し手が分からない
先手は5筋で銀交換。▲5九飛には佐藤康光九段の顔とともに△6三玉が浮かんだが、ここは辛抱、△6三銀と埋める。浮浪雲さん「堅いなあ」。そして「やり直しか」と言いながら▲4六銀と据えた。
▲5五歩の局面で指し手が分からなかった。「将棋の手はほとんどが悪手」という羽生九段の言葉がよぎる。少し前、3譜の△6二金の局面より条件がいいかと思い、△6五歩と戦線を拡大。▲同歩なら△7五歩のつもりだった。△6六歩(4図)では△8五歩の継ぎ歩と迷った。
(4図は△6六歩まで)
【5】ソフトな手、ハードな手
△8六角が飛車当たり。▲7七桂はやや意外で、少し差が詰まったのではと感じていた。少なくともあと20手足らずで終局するとは思わなかった。
△5三歩はいわゆる緩い手(ソフトな手)。自玉の風通しはやはり気になる。△6四角が銀取りで(もう一手指せるから)味がいいと思っていたが、▲5五歩と打たれて事の重大さに気づいた。駒の配置が色々とよろしくない。先に分かっていれば、△5三歩に代えて△6五歩や△8七歩など(ハードな手)を掘り下げていただろう。
(5図は△6五同桂まで)
【6】上手く指されちゃったな
5譜▲5五歩から後手負けのコースに入っている。駒損して粘る気にはなれず、潔く棋風に殉じた。5図から後手玉は即詰み。急転直下の終局だった。
自ら敷いたレール(5譜△5三歩)の先は、まさかの奈落の底行きだった。あまり経験したことのない負け方で、しばらくの間放心したままだった。
浮浪雲さんはほぼノーミス。時間を掛け、しっかりと読んでいた。私は感覚派ゆえの判断ミス。「上手く指されちゃったな」と脱帽するよりない。
(投了図は▲6五桂まで)
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