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第二番 阿吽の呼吸


ガラパじいさんさん(以下ガラパさん)は私が最も敬愛する先輩の一人。ユーモアや遊び心で共鳴するところが多く、年の差を気にすることなく懇意にしてもらっている。宴席や旅行を共にした回数は数知れず。これまでに飲んだお酒の量、費やしたお金や時間などを考えるとぞっとしないでもない。

 

将棋は四間飛車一筋。終盤の鋭さは皆から一目置かれている。

 

【1】銀冠に安らぎ

 

私は序盤から圧倒したり、奇襲を仕掛けたりすることを好まない。双方力を出し切り、勝負は時の運……という戦いが理想だ。知らない定跡や研究にハマり、知識で負かされるのは切ない。自ずとじっくりとした持久戦を目指すことが多い。

 

銀冠は上部に厚く、えも言われぬ安らぎを覚える。但し相手の角筋に入ることには注意を要する。ガラパさんとはかれこれ15年、100局以上指しているだろうか。気心も知れているから、局面はテンポよくサクサクと進む。

 

(1図は△3二金まで)

 

【2】よそ行きの展開

 

いつにも増してよそ行きの展開となった。いかにも「本に書いてありそう」な将棋である。帰って家の書棚を漁ると、△7四歩まで同一の局面が載っていた。(『四間飛車上達法』藤井猛著)。以下(1)▲9六歩△7三桂▲6九飛は一局。(2)▲4五歩△7三桂▲5五歩は先手ペース。居飛車側が避けるため、プロの実戦ではほとんど出ないらしい。

 

実戦は(3)▲5五歩。以下(A)△同歩▲同銀△8六歩▲同歩△7五歩が一例。私は(B)△8六歩▲同歩△7五歩。これを定跡のうろ覚えと言う。

 

(2図は△9二飛まで)

 

【3】読みよりもひらめき

 

2図は後手の飛車が僻地へ追いやられたが、先手の7五銀もやや方向違いな感じ。ガラパさんは▲6四歩から銀に活を入れる。

 

私は他の人より読みの量はかなり少ない方だと思う。読みよりもひらめき重視。いわゆる感覚派で、理論派の対極にある。

 

△6六歩は私好み。おまじないのような手である。飛車と角、どちらで取られても△4五歩から角をさばくつもりだった。▲3三角成では▲4五同歩や▲同桂も有力だった。▲4五歩に△4六歩を利かし、△3五歩(3図)と玉頭に襲いかかる。

 

(3図は△3五歩まで)

 

【4】先手に焦りか

 

△4五桂に先手は▲同桂と応じたが、やや素直過ぎたかもしれない。△4五同銀と後手の駒が急所に向かう。▲5三銀成は勝負手。飛車は侵入できたが、銀損も大きい。先手に焦りが生じただろうか。あるいは二人の長年の付き合いからくる阿吽の呼吸がそうさせたかもしれない。

 

急所の△3六桂が入り後手優勢。いい手が色々と見えて迷う。ガラパさんとの対局であまりいじいじと考えるのは憚られる。△3六歩(4図)では△4八角成▲同銀△3六銀打が簡明だったようだ。

 

(4図は△3六歩まで)

 

【5】煮て食うか焼いて食うか

 

▲6六角に予定していた△3三歩が打てない。(歩切れ・二歩)。この辺りは(最善ではないよなあ)と思いながら指していた。△4五銀打では△2八角成なら必至が掛かっていた。玉を下段に落とし、角は△4八角成と切るつもりだったので、あまり深く考えなかった。

 

実戦も必然手が続き、△4七歩成で先手投了。以下▲4九玉△3七金で受けなしである。会心の寄せではなかったが、まあ煮て食うか焼いて食うかの違いだろう。どちらもウマければよしとしよう。

 

(投了図は△4七歩成まで)